再び選抜の頂点に立てるか 絶対王者・九州学院 (高校剣道)

 

今春の選抜大会の組み合わせが発表された。

さて、例年この選抜大会はその年の高校剣道を占う上で非常に重要。

なぜなら選抜は高校剣道における4大大会で最も最初に行われる大会だからだ。4大大会とはすなわち、選抜、玉龍旗(ぎょくりゅうき)、魁星旗(かいせいき)、そして3年最後のインターハイ

これらの大会は高校剣道において最も重要度の高い大会とされていて全国の高校剣士達はここでの優勝を目指して日々の稽古に励む。選抜を見れば、それぞれの高校が冬の稽古を越えて現状どれくらいの完成度なのか、今年の各校の力関係はどうなのか読み取ることができるため、今後の4大大会における展開を想像できる。

さて、大会の説明はこれくらいにしておいて、今回は選抜を占う上で欠かせないキーとなる九州学院について深堀りしていきたい。

九州学院 – その高校は熊本県中央区大江の閑静な住宅街の中にある。

学校のHPによると、もともとは1911年にアメリカのキリスト教会によって創設されたキリスト教主義学校で、1991年の創立80周年を機に男子校から共学校となったそうだ。私たちの目にこの高校の名前が入るのは主にスポーツ関係だろう。九州学院は学業以外にも部活動が非常に盛んで、野球や陸上、自転車などで全国的に活躍している。その中でも最も盛んな部活動の一つが剣道だ。米田先生の指導のもと、「日本一」を目指して総勢48名の部員が稽古に励んでいる。稽古は無論、毎日だ。(学校HPによると夏・冬・テスト前に若干の休みあり、らしいが・・)

近年の高校剣道界、いや剣道界全体は九州学院を中心に展開されてきたと言って過言ではないだろう。高校剣道ファンには言わずもなが、であるが高校剣道においてはここ数年の4大大会を総なめにした。昨年の全日本選手権覇者・西村英久や全日本学生選手権で1年生にして3位入賞の快挙を果たした筑波大学の星子啓太も九州学院の出身である。

近年の成績

下記が近年の九州学院の4大大会における成績だ。

  選抜 玉竜旗 魁星旗 IH
2013 九州学院 福大大濠 九州学院 九州学院
2014 九州学院 九州学院 九州学院 九州学院
2015 九州学院 九州学院 九州学院 九州学院
2016 九州学院 九州学院 九州学院 九州学院
2017 九州学院 九州学院 島原 高千穂
2018

 

あ、圧倒的の一言。

2017年までの5年間、実に20大会中17大会で九州学院が優勝しているのである。2014年から2016年にかけてはまさしくパーフェクトであり、もちろんこれは歴代最長の連覇記録だ。毎年レギュラーが入れ替わる中でこれだけの長い間頂点を維持し続けていることははっきり言って異常である。九州学院に集う若き才能と日々の血の滲むような努力、そして米田先生の指導が非常に高いレベルで融合してこそ成し遂げられた快挙と言えるだろう。

2013年は稀代の大将・真田を擁して玉竜旗を除く3つの大会を制した。特にインターハイは九学にとって1998年の愛媛インターハイから取れていなかった悲願のタイトル。九学はこのタイトル奪取に燃えていた。正念場は準決勝の島原戦。

先鋒は漆島。九学の「勝てる先鋒」を体現したような選手だ。島原の先鋒・牧島に対して延長戦で飛び込みコテを決めて見事先鋒の仕事を果たした。しかし次鋒の上段古閑が島原のポイントゲッター鶴浜に2本負けを喫する。九学の中堅・山田は2年生ながら落ち着いた試合運びで島原・山崎を出小手で沈めた。山田は明治大学進学後、全日本学生個人で優勝、大学生にして世界選手権日本代表に選ばれるなど輝かしい実績を積み上げている。ちなみに今年は彼にとって学生最後の年である。さて、副将を前にして九学が2-1でリードと圧倒的有利な展開。なぜなら九学の後ろ2枚看板は曽我、真田という全国トップクラスの剣豪。島原の選手には少なくともこのどちらかには勝たないといけないという思いプレッシャーがのしかかる。ところが、曽我がまさかまさかの1本負け。勝敗数は2-2でタイだが次鋒の古閑が2本負けしている分得本数で島原が逆転したのである。大将の真田はもう勝つしかなくなった。島原の大将は上村。九学と同じ熊本県にある高森中出身の上村にとって真田は昔からのライバル。この大将戦には並々ならぬ決意で臨んでいた。独特な構えから多彩な技を繰り出す真田に対して真ん中を割って面を打ち込む上村。引き分ければ島原の勝ちだが、上村は果敢に飛び込みメンを繰り出していく。刻々と試合時間が過ぎていき焦る真田。延長戦。ここで負けるものかと持てる技の全てを繰り出す真田だが一本にはならない。上村が打つたび島原の応援席からは大きな声援が飛ぶ。まもなく延長戦も終了ー 早く試合が終われと祈っていた島原の選手達はこう思ったのではないだろうか。

「よし、勝った・・」

その試合終了 7 秒前、である。鍔ぜりからの中途半端な間合い、不用意に面に飛び込んだ上村のコテを真田が押さえた!

「コテーー!!」 一本!

湧きかえる九学応援席!総立ちの選手達!九学が再逆転!

呆然とする島原の選手達。九学が見事決勝進出を決め、勢いそのままに東京の高輪高校を撃破して悲願のインターハイ優勝を果たした。

九州学院悲願の優勝、残り7秒で逆転インターハイ剣道2013の動画はこちらから

・・とここまで書いてきてこのペースだと全く本題に入れないことに気づいた。2014年以降は駆け足で行こう。

2014年は先ほど述べた山田を大将に据え、4大大会を総なめにした。山田の一つ下の槌田がポイントゲッターとして大活躍。2015年はその槌田が大将。1年生の星子&梶谷が大活躍しまたも4大大会を総なめ。2016年は未だ記憶に新しい星子が大将を務めた代。副将・梶谷、大将・星子の後ろ2枚看板は相手校からすれば脅威以外の何物でもない。しかも先鋒は九学伝統「勝てる先鋒」の鈴木、次鋒・黒木、中堅・岩切と全く穴のない布陣でまたまた4大会をコンプリート、しかも圧倒的内容で「九学には勝てない・・」という雰囲気が高校剣道界に充満した。

2017年も順調な滑り出しで最初の選抜で優勝。大将は岩切、全中覇者のスーパールーキー重黒木がレギュラーに抜擢された。怪我で戦線離脱していた長尾も復帰。しかし、魁星旗で遂に連勝記録が潰える。決勝トーナメント2戦で龍谷の副将・中山に大将岩切が抜かれ、龍谷の大将と戦う前に敗戦が決定してしまったのだ。岩切が敗れた瞬間、歴史的転換点に立ち会った観衆は大きくどよめいた。とは言え連勝記録はいつか終わるものだ。気を取り直した九学は夏の玉竜旗で見事優勝。副将に据わった近本が大活躍し、この勝ち抜き戦で大将の岩切は大会を通して一回も試合に出ない「座り大将」という素晴らしい内容での優勝であった。最後のインターハイは決勝トーナメント1回戦で選抜決勝の雪辱に燃える水戸葵陵と対戦。五分五分の勝負を繰り広げるが、選抜からの約半年の間に大化けした水戸葵陵杉田が長尾から2本取ったところで流れが完全に水戸葵陵に傾き、副将・黒木も2本負けを喫して敗退が決まった。しかし、個人戦では岩切が見事優勝を果たして有終の美を飾った。

 

今年の九学メンバー

さて、そろそろ本題に入るが今年の九学メンバーも非常に豪華だ。

重黒木は神奈川の潮田中出身。全中個人優勝を引っ提げてはるばる熊本の地にやってきた。1年生後半からレギュラーに抜擢され主にポジションは次鋒や副将。先日の九州大会では見事個人優勝を成し遂げるなど世代トップの実力は折り紙付き。重黒木の強さはやはりその試合運びの上手さと防御力だろう。慎重で無駄打ちしない試合運びで強豪相手でも1年次から彼が負ける所をあまり見たことがない。今は勢いで2本勝ちするようなタイプではなく、延長戦にもつれこんでも粘り強く相手を攻め崩し1本をもぎ取るスタイルに変わってきているように感じる。

同じ関東の東京・関中からは小川。小川は関中で東京都個人2連覇、全中団体3位時の大将。当時の関中は東松舘出身者で構成されたスター揃いで先鋒・大平 (現・佐野日大大将、インターハイ個人2位)、次鋒・吉村、中堅・吉田 (現・明大中野大将、道連個人優勝)、副将・門間 (現・九州学院、道連団体優勝時の大将)、大将・小川である。

 

佐野日大、大いなる挑戦 (高校剣道)

2018.03.13

 

九州学院中からは深水、福田、渡邊、田中らがそのまま上がってきた。深水は東松舘の吉田が道連個人優勝した時に準優勝した選手。九学中としては全中優勝を成し遂げたメンバー。

池内は和歌山・西和中出身、近畿個人チャンプ。

今のところレギュラーは2年生の福田・小川、渡邊、池内、深水、重黒木で回しているが、同学年ではまだ副田 (白雲練成会/岡垣中)熊(人吉一中)もいる。熊は1月の選抜剣道大会県予選会でレギュラーとして出場。副田はレギュラーではないにも関わらず1月に行われた熊本県高校学年別剣道選手権2年生の部で他校や九学レギュラー陣を押さえ堂々の準優勝(優勝は小川)、九学の層の厚さを見せつけた。1年生にも相馬、山平 (共に九州学院中)岩間(西和中)、門間(関中 / 東松舘) が控えており層の厚さは尋常ではない。仮にレギュラー外の選手で九学Bチームを作って3月の選抜に出場してもかなり良い所までいけるのではないだろうか。

さらに言えば、昨年全中団体を制した九州学院中学の剣士たちも今年の春高等部に上がってくる。昨年の九学は団体優勝だけでなく、個人でも荒木平尾がワンツーフィニッシュと全中を完全に制した。彼らが上がってくれば今の2年生もうかうかしてはいられないだろう。九学の天下は当分続きそうである。

 

九学の今後をうらなう

さて、そんな圧倒的戦力を誇る九学だが、2月に行われた第34回九州高等学校剣道大会では準決勝で福岡大大濠に敗れ惜しくも優勝を逃した。大濠はそのまま決勝でも東福岡を破り優勝。個人で重黒木が優勝したことは九学にとって良いニュースだったが、数年前のように九学が団体戦で他を寄せ付けず圧倒的に優勝するという構図は既に崩れ、他校の実力が九学に肉薄してきていることを改めて示す大会だった。熊本県では九学の天下に変わりはないが昨年の新人戦で東海大星翔に敗れるなど油断は出来ない。

 

打倒・九州学院なるか? 東海大星翔 (高校剣道)

2018.03.13

 

レギュラーについては、福田と重黒木は堅いように見える。福田はいわゆる九学の「勝てる先鋒」になりうるポテンシャルを持つ選手であり、最近の若潮杯などでも大活躍している。安定感のある重黒木は大将で決まりだろう。残るは真ん中の3人だが、今のところ試合毎に選手を入れ替えており米田監督もどのオーダーが最も良いか決めかねているところだと推測する。最近調子を落としている深水だが、元々は九学中で大将を張るなど非常に高い実力のある選手。深水が副将としてポイントゲッターになってくれれば九学としてこれほど心強いものはないだろう。中堅には団体で滅多に負けない小川、そして次鋒には敢えて一年生の相馬か岩間を入れて暴れてもらう、というのも一案か。

 

さて、最初の4大大会は3/26~28に愛知県で行われる全国選抜。

2/17にトーナメントの組み合わせが発表され、九学は左下のブロックに入った。佐野日大や土浦日大は右下のブロック、左上のブロックには福岡大大濠、水戸葵陵、長崎県予選であの島原を破った西陵が固まっており厳しい戦いになりそうだ。そして右上のブロックでは1年次から全国の舞台で戦ってきた明豊が虎視眈々と頂点を狙っている。

九学が優勝すれば前人未到の選抜6連覇だ。恐らく彼らはそれを意識しないようにしていると思う。しかし否がおうでも外野は気にしている。昨年のインターハイで会場全体が水戸葵陵を応援するような雰囲気になり九学はスコア以上に嫌なプレッシャーを感じたことだろう。

しかし、それは注目を浴びる王者の定めだ。九学は来月の選抜でプレッシャーを撥ね退け再度頂点に立てるか。

高校剣道ファン全員が注目している。

 

追記:九学はみごと選抜6連覇を達成。決勝の島原戦は代表戦までもつれこんだが、最後は重黒木が島原の黒川から引きメンを奪って優勝を決めた。

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