麗澤瑞浪稀代の大将、いばらの道へ (高校剣道)

今回は2017年春まで時間を遡りたい。

桜が開花し始めた頃、華々しい活躍を収めた高校剣士達の進路がちらほらと聞こえてきた。

九州学院の星子や島原の松崎が筑波大学、東福岡の藤田が早稲田大学、国士舘高の落合が国士館高そのまま国士舘大学へ進学するなど、多くのスター選手が強豪大学で剣道を続ける道を選択する中、麗澤瑞浪の大将・小角が選んだのは大阪府警だった。

 

小角は麗澤瑞浪高校 (岐阜県) 大将として世代トップを走ってきた選手。1年生時から強豪・麗澤瑞浪の大将をはっていた小角の名前は全国に響き渡っていた。その他多くのスター選手同様、小角も筑波や中央などの強豪大学へ進学することを多くの剣道ファンは疑わなかっただろう。そのため、小角が大阪府警へ進むというニュースは大きな驚きをもって剣道ファンに迎えられた。

 

稀代の大将

“稀代の大将”という言葉はあまり軽々しく使われるべきではないと思うが、小角はこれに相応しい。上背はさほどあるわけではないが、ガッチリした体格で非常に体幹が強く体が全くぶれない。対戦相手からすれば戦車が迫ってくるようなとてつもないプレッシャーを感じる事だろう。技も多彩でメン・コテ・ドウ・ツキとバランス良く、高校生でここまで完成度の高い選手は歴代でも数えるほどしかいないと思う。

奈良市立若草中3年生時には全中個人3位。準決勝では優勝したPL学園中の内橋響希に敗れた。

小角の姉・小角春奈もまた全国区の強豪選手。小角は姉が通っていた岐阜県の麗澤瑞浪に進学、強豪として知られる麗澤で類まれなる剣道センスと努力により1年生から大将を務める。

周囲の期待に応え、1年生時から全国の舞台で大活躍し選抜団体準優勝、インターハイ団体準優勝、個人3位などの記録を残した。小角のインターハイ3位は、麗澤瑞浪にとって平成21年の佐藤裕己が3位入賞をして以来。ちなみに佐藤は個人戦4回戦で現在大阪府警に奉職している土谷有輝(金沢高校→国士舘大学→大阪府警)を破っている。

大阪府警剣道の新世代を担う男

2018.03.21

 

九州学院という存在

1年生大将として出場した2015年の全国選抜では小角が桐蔭(神奈川)の加納に2本勝ちするなど活躍し、準々決勝の高輪(東京都)戦では大将までリードした展開で小角が高輪大将・新名と対戦。新名は2年生世代を代表する強豪選手だ。常勝軍団・高輪の名誉にかけてここで負けてはなるものか!と凄まじい気迫で猛攻を仕掛けるが小角も負けていない。試合終盤、新名の執念が実ったか、大迫力の飛び込みメンが決まり代表戦へ望みが繋がるかと思われたが、試合再開直後、小角の狙いすましたツキが決まり大将戦は引き分け。結果、麗澤瑞浪が初の準決勝進出を果たした。準決勝初進出同士の戦いとなった麗澤瑞浪 VS 杵築の試合は副将まで引き分けが続いたが大将の小角が見事勝利をおさめ決勝進出。

ちなみにこの時の麗澤瑞浪は主将の2年生・山本以外のレギュラーは小角、沖、河村、森越 の全員が1年生。

決勝の相手は高校剣道界の頂点に君臨する九州学院(熊本)。初優勝をかけて臨んだが、先鋒の沖が梶谷に2本負け、次鋒の河村が引き分け、中堅の山本が佐藤に2本負けで万事急す。副将の森越が決死の覚悟で星子に挑んだが無念1本負けで九学の優勝が決まった。大将の小角も槌田にコテを奪われ、終わってみれば 0-4 と完膚なきまでに叩きのめされた。九学はこれで選抜3連覇、7度目の優勝となった。

とは言え、ほとんどが1年生メンバーで選抜準優勝してしまうのだから、こりゃ麗澤瑞浪の来年はドえらいことになるぞ・・・と思ったのは私だけではあるまい。麗澤瑞浪は全国区の強豪だが、女子が全国選抜やインターハイを制している一方で男子は2006年インターハイで団体3位入賞が最高位だった。つまり、小角らは1年生にして先輩達の記録を破ってしまったのだ。恐るべし1年生たちである。

2年生になっても小角たちの勢いは衰えず、東海大会団体個人ともに優勝。そして再び九学と相まみえる時がやってきた。2016年の全国選抜。前評判にたがわず麗澤と九学は準決勝まで上がってきた。麗澤のメンバー変更は昨年の山本雅人に代えて森悠貴が入っただけ。両校の戦いは予想通り好勝負となり、副将戦が終わった段階で1-1のタイ。麗澤の大将はもちろん小角、九学の大将は去年まで副将を担っていた星子だ。同学年の星子に対して1年早く大将をはっていた経験の差を見せつけたい小角だったが試合中盤コテを奪われる。取り返そうと猛反撃に出る小角だったが、一瞬の居着きをついた星子の飛び込みメンが決まり2本負け。九学が決勝進出を果たしそのまま選抜4連覇を果たした。

麗澤瑞浪が黄金期を迎えているにも関わらず、いつも僅かに全国の頂点に手が届かない。

「打倒、九州学院」

絶対王者である九学を倒さなければ自分達が頂点に立つことはできない。麗澤の面々は打倒九学を胸に誓ったのだった。

そして、最高の舞台でその誓いを果たすことになった。2016年夏、インターハイ。高校生最後の大会であり、高校剣道界において最高の舞台とされるインターハイ決勝に麗澤瑞浪と九州学院が勝ち上がってきた。

試合は序盤から動く。九学の先鋒・鈴木が森から爆裂引きコテを奪い1本勝ち。次鋒の河村は引き分け。中堅の沖は九学の次世代を担う岩切と対戦。ここで沖のパワーと経験が勝り、岩切から値千金の2本勝ちをもぎ取る。副将を前にして麗澤が得本数差でリードを奪った! 副将・森越の相手は先の選抜で1本負けを喫している梶谷。大柄な森越と小柄な梶谷の試合はさながら大人と子供が試合をしているようだが、梶谷はその俊敏さとトリッキーな技の仕掛けで森越を翻弄する。森越も食らいついて行こうとするが、梶谷のスピードとスタミナはまさしくモンスター級だ。そしてその最大の武器は分かっていても避けられない変幻自在な引きメン。常人には全く及びもつかない手首の柔らかさでとんでもない方向から引きメンが飛んでくる。この試合でも梶谷が豪快に引きメンを2本決めてリードを奪い返した。

1-2と劣勢で迎えた大将戦は小角と星子の再戦。世代を代表する二人の戦いだ。小角が1本勝ちすれば代表戦、2本勝ちすれば得本数差で麗澤の勝ちだ。逆に星子が引き分け以上なら九学の4連覇が決まる。

これは小角にとっては非常に厳しいミッションとなった。星子はインターハイ個人優勝を果たすなど間違いなく世代No.1 剣士。攻めて良し、守って良し、高校生剣士としての一つの完成形とまで言われた歴代でもトップクラスの逸材だ。ちなみに星子は筑波大学進学して間もなく1年生ながら大学剣道の最高峰である全日本学生剣道選手権個人で3位入賞を果たし周囲の度肝を抜いた。

試合開始の合図と共に小角がメンに飛び込む!会場がワッ!!と沸くが一本にはならない。そしてその直後、星子伝統の電光石火・飛び込みコテがバシィッ!っと決まり早々に一本を奪取。小角、後が無くなった。いやはや、しかし星子のコテの鋭さは一体なんなんだ・・・

星子は一本奪った後も猛然と攻め続ける。コテ!!メンッ!小角は星子の鋭い技を際どい所で躱し続ける。ああ、やはり九学の壁は厚かったか・・そんな雰囲気が会場に広がり始めた。しかし、小角は諦めていなかった。星子の猛攻を凌ぎつつ機会をうかがっていたのだ。そして星子が攻め疲れたのか一瞬中途半端な間合いで居着いた瞬間、

メーーーン!小角の飛び込みメンが星子の頭を捉えた!

もう1本取れば代表戦に繋げる。麗澤瑞浪の応援席も俄然盛り上がった。

1本ずつ取り合って運命の「勝負!」二人の竹刀が交わったその瞬間。

絶対王者・星子の体が跳躍する。あっ、と小角が思うまもなくその磨き上げられた鋭い剣先が小角の脳天を貫いていた。

何という思い切った飛び込みメン!

このインターハイ決勝の大将戦というとてつもないプレッシャーのかかる場面で何もかもを思い切らなければ出せないメンだ。こんな飛び込みメンが出来る選手は歴代でも5人といないのではないだろうか。高校剣道の最高傑作と言われる星子だからこそ出せたメンだろう。

インターハイの歴史に残る飛び込みメンを目撃した会場は大盛り上がりだ。星子の飛び込みメンで吹き飛ばされた小角はやっと立ち上がった。うなだれる麗澤メンバー。

結局、3年間で打倒・九学はならなかった。

 

いばらの道へ

九学との戦いが小角に残したものは小さくなかっただろう。常に世代トップを走ってきた小角にとって九学、そして星子は倒さなければいけない存在になったに違いない。

ここからは推測でしかないが、この打倒・星子という想いが小角をして大学ではなく大阪府警への奉職を決心させた動機ではないか。正直、星子の強さは異常だ。前述の通り大学1年生になったばかりで先輩の強豪選手たちを押しのけ全日本学生選手権で3位入賞を果たすなど大学入学時に既に大学トップクラスの実力があることを証明して見せた

星子と同じように大学に行って剣道をしても勝てない。小角はそう思ったのかもしれない。

日本で剣道を極める場合は警察の特練 (特別練習生)になるのが最も最強への近道とされており、毎年大学のスター選手が大阪府警、神奈川県警、警視庁などに奉職する。大阪府警は今現在警察剣道の頂点に君臨する存在。警察剣道の頂点とはすなわち、日本剣道の頂点とほぼ同義だ。それだけ高いレベルの先輩達と高校卒業してからすぐに稽古を積むことで大学を経由して来た者に大きく差をつけられるかもしれない。

しかし、その道はいばらの道だ。小角がどのような枠で府警に奉職しているのか不明だが、いずれにしても達人揃いの大阪府警において少なくとも4-5年は団体のレギュラーにすらなれないだろう。また特練の稽古は大学の厳しさの比ではないとも聞く。大学へ進学した者が享受できる普通のキャンパスライフとも無縁の生活を送ることになるだろう。

しかし彼にとって星子に負けっぱなしという状態は許しがたいものに違いない。いつの日か、インターハイのリベンジをする時を虎視眈々と狙っているはずだ。

彼らの代が高校を卒業してからちょうど1年経った2018年3月現在、星子や梶谷らが大学剣道で華々しい活躍を続けている一方で、小角の名前は一向に聞こえてこない。その名前をまた聞くことになるのは半年後か、1年後か、はたまた5年後か。

小角と星子という傑作が、いつかまためぐり逢い、名勝負を繰り広げてくれる、一剣道ファンとしてはそう願ってやまないのである。

 

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