大阪府警剣道の新世代を担う男

常勝軍団、大阪府警剣道の新世代を担う男がいる。

土谷有輝 (つちたに ゆうき)選手だ。

今回はこの日本剣道を代表する剣豪である土谷について語っていきたい。

 

金沢高校時代

土谷は石川県の出身。

高校は石川県の強豪である金沢高に進学。同学年の藤井大とともに同校を引っ張り、第47回北信越高等学校剣道大会個人をツートップでフィニッシュ  (優勝が土谷、準優勝が藤井)。

さらに、3年生時の2009年インハイ県予選では男女ともに金沢高が独占、大阪インターハイ個人戦に出場した。本選では1回戦で北海の工藤数馬、2回戦で安房の佐藤弘隆、3回戦で島原の大坪学嗣といった強豪選手を撃破。しかし、4回戦で麗澤瑞浪の佐藤裕己に敗れた。佐藤はそのまま3位入賞を果たす。決勝は明徳義塾の塩谷匡彬と九州学院の茂田大貴で行われ塩谷が優勝。

 

国士館大学時代

金沢高を卒業後は剣の道に進むため2010年に強豪・国士舘大学に進学。

土谷が入学した当時の国士舘大学は黄金期を迎えており、学生剣道最高峰の全日本学生剣道優勝大会2007年・優勝、2008年・優勝、2009年・3位という快挙を成し遂げていた。

土谷が1年生時の4年生には石田雄二がいた。石田は学生剣道の歴史に燦然たる足跡を残した選手で高輪高校3年時のインターハイ個人優勝を引っ提げて国士舘大学の門を叩いた。2010年の全日本学生選手権では準優勝。石田と同学年の松崎桂一郎は同大会で個人3位。

その下の学年も安藤翔、藤岡弘径中澤公貴、國友錬太郎らといったスター選手揃いであった。安藤は第60回全日本学生選手権を優勝、北海道警に奉職して全国警察剣道選手権個人優勝、世界選手権団体メンバーに選出されるなど日本剣道をけん引する存在。藤岡は第59回全日本学生選手権優勝、中澤は第59, 60回の選手権で2度3位入賞を果たした。國友は全日本剣道選手権準優勝。

そんな怪物揃いの国士館大学で土谷は徐々に頭角を現す。

3年生時には主に先鋒として常勝軍団の切り込み隊長の役割を果たした。最も印象的だったのが2012年の全日本学生剣道優勝大会の決勝、対中央大学戦。当時の大学剣道界は安藤翔率いる国士舘大学と宮本大幹、浩平の宮本兄弟率いる中央大学が頂点を争っていた。前年の関東学生選手権団体でも決勝で両大学が激突し国士舘大が優勝。しかし大将の宮本大幹が安藤翔に2本勝ちを収め一矢報いた。

手の内を互いに知り尽くす両校の戦いは序盤で動く。国士舘の先鋒はこの日絶好調の土谷。これを迎える中大の先鋒は宮本兄弟の弟、浩平。

土谷の構えは特徴的だ。長身細身の体躯で竹刀を柔らかく構え、手首のスナップを利かせて剣先をユラユラと動かしながら間合いに入っていく。その手首を利かせた鋭い飛び込みメン、コテが大きな武器だ。そのしなるような鋭い打ち込みはさながらピューマのような肉食獣を連想させる。そしてスピードもさることながら、特筆すべきはそのパワー。あの細身のどこにそんなパワーがあるのかと思うほどの怪力で大柄な対戦相手もぶん回す。試合をしている時の土谷はそのファイティングスピリットも相まって猛獣のようだ。

 

試合早々、土谷と宮本が合いコテメンだ!惜しい。試合開始から1分ほど過ぎた時、土谷が合いメンを制して1本。試合開始線に戻る両者。主審の「2本目!」の合図がかかるやいなや、土谷のスナップを利かせたコテが宮本の手首を切り落とした!まさにムチのような電光石火の飛び込みコテだ。土谷が2本勝ちをおさめ、国士舘が幸先の良いスタートを切った。

結局、国士舘はその後も優勢に試合を進め、大将の安藤翔が宮本大幹に2本勝ちして14回目の優勝を決めた。

4年生になった土谷は国士舘を率いる存在にまで成長した。同学年には菅野隆介(小牛田農林出身)がおり、3年生で関東大会個人準優勝の実績を持つ菅野が当初は大将を務めていたが、途中から土谷が大将や代表戦を担うようになった。

土谷らは名門・国士館の名に恥じない戦いを見せ、第62回関東学生剣道優勝大会で優勝(2連覇、24回目)。11月の全日本学生剣道優勝大会にも連覇をかけて臨んだ。

この年(2013)の本大会は前年準優勝で今年も優勝候補であった中央大学が香川大学に代表戦で敗れる波乱の幕開けとなった。国士舘は順調に3回戦まで勝ち進み、村瀬諒率いる日体大と激突。村瀬は2年生にして全日本学生剣道選手権優勝を果たした実力者。

大将戦が終わって勝ち数、得本数もタイ。代表戦だ。国士舘はもちろん土谷。日体大は先輩を押しのけて村瀬が出てきた。

最後の大会で両校共にこんなところでは負けられない。土谷は惜しい引きメンを繰り出すなど激しい攻めで試合を優位に進めるがなかなか一本にはならない。

延長戦が始まって4分ほど経った時、消極的な姿勢で両者に反則一回。これでどちらかがもう一回反則を犯せば1本となり、勝負は決する。

その後も有効打は出ず10分が経過した時だった。土谷の飛び込みメンが村瀬の面を捉えた!かのように思われた。「決まった!」土谷はそう思ったに違いない。思いっきり場外まで残身を取る。しかし旗は1本しか上がっていない!

場外だ・・・会場がざわつく。ようやく事態が飲み込め、狂喜乱舞する日体大応援席。愕然とする国士館。

場外で倒れこんだ土谷は気力が抜けてしまったか、立ち上がることが出来ない。

主審は土谷への反則を示した。反則2回、1本・・・土谷の猛獣的な勢いが彼を場外まで突き進ませてしまった形となった。この残酷な結果を受け入れられないのだろう、肩を落とした土谷は重い足取りで一歩一歩開始線に戻る。

「反則2回!1本!」 前年覇者・国士館大学の3回戦敗退が決まった。

端から見ていると土谷のメンは決まったようにも見えた。しかし審判が一本ではないと判断したのであれば一本ではないのだ。土谷も反則を受けた時は一瞬抵抗するそぶりも見せたが、最後はきちんと礼をして試合を終えた。想像を絶する悔しさを感じている時に礼節を守ることは非常に難しい。土谷の精神的な「強さ」を見た瞬間だった。

 

大阪府警時代

大学の最後は残念な形で終わってしまったが、土谷の剣道はまだ序章だ。大学を卒業後はさらなる高みを目指して大阪府警に奉職した。

プロリーグのない日本剣道界で警察剣道は最強とされる。特別練習生に指定された選手達は日々の多くの時間を稽古に割くことができ、その練習量は教職員や実業団を遥かに凌ぐ。特に近年はそれが顕著で全日本剣道選手権に出場する選手の多くが警察の特練生だ。

その中でも絶対王者として君臨するのが大阪府警。警察剣道の最高峰である全国警察剣道大会の第一部で2015年から3連覇、今年は4連覇がかかる。その大阪府警に対し、警視庁、神奈川県警、北海道警などが食らいつく、というのが最近の警察剣道の流れだ。

大阪府警には江島千陽、升田良、大城戸知前田康喜、牛島辰徳ら全日本選手権などで活躍する日本を代表する剣豪が揃っており、稽古の場としては最高だ。(当然、ムチャクチャに激しい稽古らしいが・・・)

土谷は早々から団体戦のメンバーに選ばれ、活躍。警察大会で彼を見ると、大学生だった頃よりも一回り体が大きくなり、更にパワーが増したことが見て取れた。激しい稽古を積んでいるのだろう。

警察官になってから2年後の2015年、土谷は快挙を成し遂げる。全国警察剣道大会の個人戦で優勝してしまったのだ!全国の屈強な猛者が集まるこの大会でついこの間まで大学生だった若者が優勝するのは無論すさまじい事だが、特に土谷の凄さが表れたのが決勝戦の神奈川県警・野村戦。

試合開始30秒、上段の野村に対して土谷はメンに飛んだ!よしきたとばかりにメンに応じる野村。通常、上段に竹刀を構えている方が断然有利なはずである。しかし、だ。

「バーーーン!!」 何かが爆発したかのような音が会場に鳴り響いた。土谷の竹刀が野村の竹刀を吹き飛ばし脳天をカチ割ったのだ!

何というバネ!何というパワー!何という動物的な身体能力!

 

土谷は24歳にして全日本剣道選手権にも初出場。1回戦で鹿児島の上宇都鉄舟に敗れたが、近い将来全日本でも土谷の活躍が見られることだろう。

 

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