伝説の玉竜旗 (高校剣道)

アクシオン福岡に試合終了の笛が無情にも鳴り響く。その瞬間、最後の一秒まで一本を諦めなかった福大大濠の大将・梅ヶ谷は肩を落とした。

全国屈指の名門・福大大濠のインターハイへの道が閉ざされた瞬間だった。

 

インターハイへの切符

全国屈指の激戦地・福岡県のインターハイ出場権争いは熾烈を極める。他県ならば頂点を獲れるであろう東福岡、福大大濠、筑紫台、八女学院、福工大附属城東、福岡舞鶴、福翔、西日本短期大学附属・・・といった強豪がたった一つの椅子を巡って争う。

永遠のライバル!福岡大大濠と東福岡 (高校剣道)

2018.03.13

直近10年間の福岡県インハイ予選の結果は下記の通り。ここ10年間は東福岡と福大大濠で優勝をおおよそ二分しており、優勝回数は東福岡3回に対して福大大濠は6回。唯一の例外は2012年(平成24年)の福岡第一。この年の福岡第一は大将の井出を中心に強力なメンバーが揃っており、福岡県を制した勢いそのままにインハイ準優勝を果たした。(インハイ決勝では神奈川県・桐蔭に敗れる。当時の桐蔭は神野・田中・村上・加納・平井という高校剣道史に残るチート級の布陣だった)

 

2018年 優勝:東福岡 準優勝:福大大濠 3位:福岡第一、福岡常葉

2017年 優勝:福大大濠 準優勝:福工大城東 3位:東福岡、福岡第一

2016年 優勝:福大大濠 準優勝:東福岡 3位:折尾愛真、筑紫台

2015年 優勝:東福岡 準優勝:福大大濠 3位:福岡舞鶴、筑紫台

2014年 優勝:福大大濠 準優勝:東福岡 3位:久留米商業、筑紫台

2013年 優勝:東福岡 準優勝:福工大城東 3位:久留米学園、筑紫台

2012年 優勝:福岡第一 準優勝:福大大濠 3位:八女学院、筑紫台

2011年 優勝:福大大濠 準優勝:東福岡 3位:糸島、福工大城東

2010年 優勝:福大大濠 準優勝:福岡第一 3位:東福岡、八女学院

2009年 優勝:福大大濠 準優勝:八女 3位:北筑、八女学院

 

福大大濠は2011年に稀代の大将・竹ノ内を擁してインハイ団体優勝。決勝戦の大将戦で竹ノ内が対戦校・小山の大将から立て続けに奪った二本のメンは未だに剣道ファンの語り草となっている。竹ノ内の引退後、2年生にして大濠の大将を任された梅ヶ谷、あの竹ノ内の後とあってプレッシャーもあっただろうが、玉竜旗で準優勝するなど活躍。しかし、その年のインターハイ出場は黄金期の福岡第一に阻まれ叶わなかった。

そして最終学年で迎えた2013年のインターハイ予選。団体戦一回戦の相手はなんと一年前の決勝で敗れた福岡第一。福大大濠 VS 福岡第一という全国決勝の舞台であたってもおかしくない両校が県予選一回戦でぶつかることがありうるのが福岡県の恐ろしさだ。

さて、試合は先鋒、次鋒が引き分け。中堅が一本負けし、副将が引き分けて大将の梅ヶ谷に繋いできた。梅ヶ谷、福岡第一大将・山根を相手に最低でも一本勝ちしなければ大濠の早すぎる敗退が決定してしまう。試合序盤から猛攻を仕掛ける梅ヶ谷、逆ドウ、メンと惜しい打突が飛び出すが一本にはならない。そんな猛攻のスキをつき、山根が飛び込みコテを奪う。大濠、万事休す・・・

なりふり構わずに一本を奪いに行く梅ヶ谷だったが、山根も必死で一本を守り切り、試合終了の笛。結局、福岡第一が0-2で大濠を下し2回戦進出を決めた。しかし最後にインハイの切符をつかんだのは勇大地率いるライバル校・東福岡。大濠にとっては非常に悔しい試合になった。

 

伝説の序章

インターハイ出場を逃した大濠は玉竜旗に全てをかけて臨んだ。

玉竜旗は毎年福岡マリンメッセで行われる高校剣道最大の大会。5人制団体の勝ち抜き戦。大濠は竹ノ内の代で2連覇を果たしており、前年は決勝で惜しくも島原に敗れ3連覇を逃した。

大濠は青森県・五所川原第一や静岡県・浜名高などと同じHパートで決勝まで勝ち上がった。パート決勝の相手は大阪のPL学園。PLの副将川上に大将の梅ヶ谷が引っ張り出されたが、得意の引きメンと出コテで2本勝ち。PL大将の杉野にも引きメンで先制されるが思い切りの良いツキと引きメンで逆転、Hパート優勝を果たす。

隣のGパートを勝ち上がってきたのは神奈川県の桐蔭学園。一年前の2012年インターハイ決勝で大濠を破った福岡第一を圧倒し優勝した関東を代表する強豪だ。インハイ優勝レギュラーのうち4人は引退、次鋒だった田中が大将をつとめる。実は田中は梅ヶ谷とは三股中学時代の同級生。手の内を知り尽くした相手との対戦となった。

桐蔭との準々決勝で梅ヶ谷は桐蔭副将をツキで撃退し、大将の田中を引っ張り出す。それにしても梅ヶ谷、上背はそれほどないが驚異的な俊敏さとバネで面白いように一本を決めていく。得意の引き技をベースにメンコテドウどこからでも打突が飛んでくるからどう防げばいいのか対戦相手もよく分からないままに一本を取られているような印象だ。しかし、そこは元チームメイトの田中、梅ヶ谷の手の内は把握していると言わんばかりに落ち着いた試合運びだ。お互いに決め手を欠き、延長戦。

試合開始線へ戻る時にチームメイトの方を見て小さくうなずく梅ヶ谷。「絶対に勝つ」と伝えようとしていたのだろうか。

試合開始直後、田中の引きコテ!一本にはならない。残心で下がった田中を梅ヶ谷が追う。引き際から反転、田中がメンに飛ぶ!その一瞬。梅ヶ谷が背中を丸める。あっ!っと思った時には時すでに遅し。梅ヶ谷の竹刀が田中の逆ドウをバチィーーン!!と切り落としていた。一本。三股中同門対決は梅ヶ谷に軍配が上がった。

大濠、これで準決勝進出だ。準決勝の相手は佐賀県の龍谷。梅ヶ谷と同様、幼年期から世代トップを走る久田松を大将に据え準決勝まで勝ち上がってきた。久田松は先日の全九州大会個人戦決勝で梅ヶ谷に敗れており、その雪辱に燃える。

桐蔭戦と同じ展開で龍谷副将の馬渡が梅ヶ谷を引っ張り出すが、梅ヶ谷焦らず得意の引きメンで馬渡を退ける。いやはや、梅ヶ谷の引きメンはまさしく伝家の宝刀。電光石火で放たれる引きメンは防ぐ術がない。

梅ヶ谷と久田松の対戦。過去幾度となく対戦してきた二人の試合に会場中の注目が集まる。

お互いに手の内をよく分かっている二人だけに慎重な試合運びとなる。しかし近間での打ち合いになったところで梅ヶ谷が久田松の竹刀を弾き飛ばす。右手が竹刀から外れた久田松、思わず面を右手でかばう。そのスキを見逃さなかった梅ヶ谷、ガラ空きになった右手にバコーーン!と引きゴテ!幸先よく一本を決めた。

追いつきたい久田松だが、梅ヶ谷の堅守を前に中々有効打が打てない。すると一本目から約20秒後、また梅ヶ谷が鍔ぜりからの引きメン!これが鮮やかに決まり勝負あり。大濠は4年連続での玉竜旗決勝進出を決めた。

 

高輪との死闘

決勝の相手は名将・甲斐監督率いる東京都の高輪(たかなわ)準々決勝で福岡第一、準決勝で島原と九州の強豪を打ち倒して決勝に上がってきた。高校剣道界指折りの歴史ある強豪校だ。特にこの年は大将の佐々木を中心に穴のない布陣で玉竜旗初優勝に並々ならぬ意気込みをもって試合に臨んできた。

大濠・日髙と高輪・津田の先鋒戦は引き分け。

高輪の次鋒・阿部は東京の名門道場・東松舘の出身、2年生でレギュラーをつとめる。玉竜旗決勝の大舞台でも非常に落ち着いている・・・と言っている間に、なんということだ、阿部が大濠からバッタバッタと一本を取っていくではないか!名門・大濠でレギュラーをはる実力者の原、矢野を倒し、副将の萱嶋からも試合開始直後に圧巻の引きコテを奪い勝利。この日の阿部はいつに増してキレキレだ。

嗚呼、大濠、大ピンチ。次鋒の阿部に大将まで引っ張り出されてしまった。ここから大濠が逆転するためには梅ヶ谷一人で高輪の剣豪4人を連続で倒さなければならない。

しかし、大濠はもちろん諦めてはいない。梅ヶ谷、まずは阿部が飛び込みメンで態勢を崩したところで引きゴテ!そして引きドウー!あっという間に二本勝ちを収めた。

とは言え、後ろに控えるのは平山・重黒木・佐々木。一人を抜くだけでも容易なことではない。平山、梅ヶ谷得意の引き技を抑え込もうとするが、延長に入って遂に梅ヶ谷の引きメンが平山の面を捉えた。さすがに疲労の色が見え始めた梅ヶ谷を副将・重黒木が迎え撃つ。

剣道一家出身で剣道エリートとしてここまできた重黒木もこの場面では決して負けられない。重黒木が負ければ梅ヶ谷は3連勝と勢いに乗って佐々木との大将戦に臨むことになる。試合の流れを大濠に渡すわけにはいかない。

猛然と攻める重黒木に梅ヶ谷も多彩な技で応戦する。お互いに惜しい打突を繰り出すがなかなか一本にならない。

おお!重黒木が引き技で下がったところに梅ヶ谷の担ぎメンがバコーン!と決まった!梅ヶ谷、なんというスタミナだ。試合はそのまま時間切れ。

さて、大濠はついに高輪の大将・佐々木を引っ張り出した。とはいえ状況はイーブンではない。10人抜きをしている梅ヶ谷は既に疲労困憊、対して佐々木は気力十分だ。そうでなくとも、佐々木はこの玉竜旗の後、インターハイ個人で優勝を果たすことになるまさに世代を代表する剣士。梅ヶ谷が万全の状態でも勝てるとは限らない相手だ。

最終決戦に会場が緊張に包まれる。鋭い打突の一つ一つに上がる歓声。試合時間終了、延長戦。ここから先は先に一本取った方が勝ち、玉竜旗優勝を果たす。

「絶対に玉竜旗を持ち帰る!」2人の大将はお互いに一歩も譲らない。インターハイ出場が決まっている高輪と違い、県予選で福岡第一に敗れた大濠の3年生にとってはこの玉竜旗が最後の大舞台だ。高輪としても何としても初の玉竜旗優勝を成し遂げたい。両校共に頂点にかける想いはひとしお強かった。

手に汗握る試合も気づけば延長に延長を重ね、20分を過ぎた。梅ヶ谷はもう立っているのがやっとという状態。佐々木の疲労も頂点に達していた。

30分を過ぎた頃だろうか、対峙した二人の竹刀が交わる。スッと竹刀を上げながら間合いに入る梅ヶ谷。それに反応して佐々木が前に出ようとしたその時!梅ヶ谷の竹刀が佐々木の面を捉えていた!!

うおおおおおぉぉーーー!!会場が沸く。

梅ヶ谷、なんというガッツだ・・次鋒から大将まで4人抜き、準決勝までを入れれば11人抜きだ。しかもただの11人抜きではない。高校剣道界随一のマンモス大会である玉竜旗を上位まで勝ち上がった強豪の大将らをなぎ倒しての11連勝。聞けば決勝で大将が4人抜きをして優勝したのは1976年の福岡商以来37年ぶりのことだという。まさに快挙だ。

死闘を制した福大大濠が男子団体574チームの頂点に立った。

勝ち抜き戦の玉竜旗ではこれまでに数々のドラマが生まれた。昨年の決勝では九州学院の副将・近本が高千穂の清家を下し、九学大将の岩切が「座り大将」(大会を通じて一度も試合をしない大将)となって話題になった。

しかし、梅ヶ谷の11人抜きは間違いなく玉竜旗の歴史に燦然と輝く伝説だ。5年経った今でも、梅ヶ谷の戦いは我々に最後まで諦めずに戦うことの大事さを伝えようとしているかのようだ。

 

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